むちうちで診断書は必要?必要となるタイミングや取得方法について解説!

交通事故で強い衝撃を受けると、首がムチのようにしなって痛みやしびれなどが生じることがあります。このような傷病は「むちうち」とも呼ばれ、治療費などについて加害者に損害賠償請求できます。

では、むちうちが発症した際に、「診断書」を取得する必要はあるのでしょうか?

結論から申し上げると必要になります。
ただ、どのタイミングで診断書が必要になるかや、診断書の取得方法がわからない方も多いと思います。

そこで、この記事では、診断書が必要なタイミングや取得方法について詳しく解説します。

【この記事で解決できる疑問】

■診断書が必要となるタイミング
■診断書の取得方法
■「後遺障害診断書」の解説

【結論】適切な損害賠償金を請求するためには診断書が必要

適切な損害賠償金を受け取るためには、診断書が必須になります。
診断書がなければ、警察に物損事故として処理されたり、相手方の保険会社と揉めたりする可能性があるため、必ず取得するようにしてください。

もし、完治せずに後遺障害が残ってしまったときは、後遺障害診断書も必要になります。通常の診断書と併せて取得するようにしましょう。特に、むちうちは外部からみて客観的にわかりにくい症状ですので、後遺障害診断書の内容は非常に重要です。医師に具体的な症状を説明し、適切な後遺障害診断書を作成してもらいましょう

診断書が必要となるタイミング

診断書はどのようなシーンで必要になるのでしょうか。
基本的には、警察に人身事故として処理してもらうときと、任意保険会社に損害賠償請求するときに必要になります。
また、勤務先に休職を申請するときにも診断書が必要な場合があるので、会社に確認を取るようにしましょう。
ここからは、それぞれのタイミングについて詳しく解説します。

警察に人身事故として処理してもらうとき

交通事故が起こったとき、警察に人身事故として処理してもらうためには、診断書が必要になります。
診断書の記載内容や、提出する際の注意点を解説します。

診断書の記載内容

警察提出用の診断書の記載内容は以下のとおりです。

■傷病名
■加療までの期間

傷病名の欄には、むちうちの正式名称である「頸椎捻挫」や「外傷性頸部症候群」などが記載されます。
加療までの期間とは、症状が完治するまでの日数であり、むちうちでは1〜2週間程度になるのが一般的です。

提出しないことによるデメリット

警察に診断書を提出しなければ、人身事故ではなく物損事故として処理されます。
人身事故と物損事故の大きな違いとしては、慰謝料を請求できるかできないかにあります。

慰謝料とは、精神的苦痛に対する賠償金であり、人身事故で生じた苦痛などに対して支払われるものです。ですが、物損事故で被った精神的ショックは、モノに対する損害賠償によって賄えると考えられます。

したがって、加害者にきちんと慰謝料請求するためには、人身事故として処理される必要があります。その際には診断書が必要ですので、必ず警察に提出するようにしてください。

まれに加害者から「物損事故で処理してほしい」と頼まれることがありますが、必ず人身事故で処理してもらいましょう。

物損事故として処理された後でも提出可能

むちうちは事故から数日経って発症するケースも少なくありません。そのため、事故の規模が小さければ、警察の判断でいったん物損事故と処理される場合があります。

ですが、物損事故として処理された後でも、診断書を提出すれば、人身事故に切り替えてもらうことが可能です

人身事故に切り替われば、人身事故として捜査が開始されます。

人身事故の捜査では、警察が事故関係者に事故状況の取り調べを行い、双方の証言をもとに実況見分調書という資料を作成します。実況見分調書は、過失割合の決定などでも役立ちますので、立ち合いの際には、事故当時の様子をできるだけ詳しく説明しましょう。

任意保険会社に賠償金を請求するとき

加害者側の任意保険会社に損害賠償請求したい場合も診断書が必要になります。ここからは、加害者側の任意保険会社に提出する用の診断書について詳しく解説します。

診断書の記載内容

加害者側の任意保険会社に損害賠償請求するときは、診断書の提出が必要になります。
具体的な記載項目は以下のとおりです。

■傷病名
■受傷部位
■治療開始日
■治癒または治癒見込み日
■治療の内容・経過
■検査結果
■今後の見通し

任意保険会社に提出する診断書の内容は、損害賠償額にも大きく影響します。そのため、警察に提出する用の診断書よりも詳しい内容を記載する必要があります。

任意一括対応では同意書のみでOK

相手方の保険会社による「任意一括対応」を受ける場合は、保険会社に診断書を提出する必要はありません。

任意一括対応では、加害者側の保険会社が、被害者が負った傷病の治療費を病院に直接支払ってくれます。この手続きの中で、保険会社は医療機関から被害者の医療情報を取得するため、診断書の提出は不要となります。

ただ、医療情報は大事な個人情報です。そのため、相手方の任意保険会社は、「被害者の医療情報を取得して良いか」について、被害者から許可を得なければなりません。このとき、保険会社指定の「同意書」を提出する必要があります。

勤務先に休職を申請するとき

むちうちの治療のために休職したい場合、勤務先から休職診断書の提出を求められることがあります。
休業中は給与が支払われないことが多いですが、休業診断書を提出すれば、加入先の健康保険に「傷病手当金」の支払いを申請できる可能性が高いです。
また、通勤時や業務中における事故でむちうちを負った場合は、労働災害(労災)にあたるため、労災保険から給付金を受け取ることも可能です。

診断書はどうやって取得すればいい?

ここからは、診断書を取得する方法や、作成までにかかる期間、日数などについて詳しく解説します。

診断書は医師のみが作成できる

交通事故によるむちうちで診断書を受け取りたい場合、整形外科などの医師に作成してもらう必要があります
接骨院や整骨院に通う方もいるかもしれませんが、むちうちなどに関する診断書を作成してもらうことはできません。
というのも、接骨院や整骨院に在籍しているのは、医師ではなく柔道整復師だからです。
治療のために接骨院などに通う場合でも、必ず整形外科にも通院しましょう

作成にかかる日数や費用

診断書の作成にかかる日数や費用は以下のとおりです。

診断書作成にかかる日数

診断書の作成にかかる期間は、医療機関によってまちまちです。即日で発行してくれる場合もありますが、多くの場合は1〜2週間程度かかると想定しておいてください。

診断書作成にかかる費用

診断書の発行は原則有料であり、数千円~1万円ほどの費用が必要です。
発行にかかる費用は、全国一律ではなく、医療機関によって細かく変わるため注意してください。
費用がどのくらいになるか気になる方は、あらかじめ医療機関に問い合わせると良いでしょう。

完治しなければ後遺障害診断書も必要となる

むちうちの症状が完治しなかった際には、通常の診断書とは別に、「後遺障害診断書」も必要になります。
ここからは、後遺障害診断書について詳しく解説します。

むちうちは後遺障害として残る可能性がある

交通事故でむちうちが発症した場合、完治せずに症状の一部または全部が残ってしまうことがあります。このようなケースでは、「後遺障害」の認定を申請することで、「後遺障害等級」が認められる可能性があります。
後遺障害の認定を申請するためには、通常の診断書とは別に、後遺障害診断書が必要になります。

後遺障害診断書とは

後遺障害診断書は、正式名称を「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」といい、交通事故で負った後遺障害の認定手続きの際に必要となります。
通常の診断書と同様に、作成できるのは医師のみであり、整骨院などの柔道整復師に作成を依頼することはできません。

むちうちの症状は、治らなかったからといって、直ちに後遺障害が認められるわけではありません。後遺障害等級の申請が認められてはじめて後遺障害が認められます。
このとき、後遺障害診断書の記載内容が非常に重要となります。内容が不適切な場合は、想定していた等級が認定されないおそれがあるため、症状の詳細を正しく医師に伝えるようにしましょう。

むちうちで認められる等級は12級と14級

後遺障害等級は、症状の種類や部位、程度によって1〜14級に分類されます。
等級が1級に近づくほど、症状が重いとみなされ、加害者側に請求できる賠償金も増えます。
むちうちで認定される可能性があるのは12級13号14級9号ですが、ほとんどのケースで14級9号が認定されます。
12級13号と14級9号の違いは以下のとおりです。

等級認定基準
12号13号局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号局部に神経症状を残すもの

12級13号と14級9号のどちらが認定されるかについては、神経症状が「頑固」であるか否かで判断されます。この言葉だけでは分かりにくいですが、実務上では、MRIなどの画像検査で異常所見を確認できたときに12級13号が認定されます。ただ、むちうちによる症状は、画像だけで判断つかないケースも少なくありません。そのような場合でも、受傷時の状態や治療の経過などから、むちうちの症状を一応説明できれば、14級9号の認定を受けられる可能性があります

後遺障害診断書を書いてもらうときのポイント

後遺障害診断書の記載内容が適切でなければ、正しい等級認定を受けられない可能性があります。
ここからは、後遺障害診断書を書いてもらうときのポイントを解説します。

自覚症状を正しく訴える

むちうちは外見だけで判断がつきにくい症状です。そのため、痛みやしびれがどのようなものか具体的に説明しなければなりません。「腕がしびれる」のようなアバウトな説明ではなく、「〇月△△日以降、左腕のひじから親指にかけて刺すような痛みがある」のように、ご自身の症状を具体的に訴えましょう
また、洗濯物を取り込むときに痛くなりやすいなど、特定の条件下で症状がひどくなるときは、その旨も伝えるようにしてください。

必要な検査を受ける

むちうちを発症したときは、必ずレントゲンやMRIなどの画像検査を受けるようにしてください
もし、神経根の圧迫といった異常所見が画像で確認できた場合は、後遺障害12級13号の認定も期待できます。

ただし、むちうちのような神経症状は、画像検査で症状を証明できないケースが少なくありません。
この場合でも、神経学的検査を受けることで、後遺障害14級9号が認定される可能性があります。

むちうちの神経学的検査の代表例は、「ジャクソンテスト」と「スパーリングテスト」です。
それぞれ頸部を所定の方向に倒したときに、痛みが誘発されると陽性反応になります。

定期的に通院する

等級認定のために後遺障害診断書を書いてもらうときは、適切なペースで通院を継続するようにしましょう
通院ペースが著しく落ちたり、途中で通院を断念してしまったりすると、等級認定の審査で「後遺障害と認めるほどの症状ではない」と判断されるおそれがあります。
医師の指示に従いながら、週1〜2回のペースを目安に通院を継続するようにしてください。

病院によっては書いてくれないことも

医師に後遺障害診断書の作成を依頼しても、場合によっては作成を断られるケースがあります。
では、なぜ後遺障害診断書の作成が断られるのでしょうか。理由と対策法について解説します。

理由① まだ治療が終わっていないから

後遺障害診断書を作成できるのは、「症状固定」の後になります。
症状固定とは、これ以上治療を継続しても、その効果が見込めない状態のことです。いいかえれば、症状固定までは症状の改善が期待できるため、医師が症状固定と判断するまでは治療を続けるようにしてください

理由② 治療経過をみていないから

後遺障害診断書を作成してもらうためには、医師が患者の治療経過をきちんとみている必要があります。
例えば、転院によって医師が変わった場合などでは、転院先の医師は、患者の治療経過を事故当初からきちんと把握できていません。
このようなケースでは、「責任を持って後遺障害診断書を書けない」などと言われ、診断書の作成を断れることがあります。

対策法には大きく分けて2つあります。
1つ目は、転院前の病院にカルテなどの資料を取り寄せて、転院先の医師にあらためて作成を依頼する方法です。
事故当初からの治療経過さえ分かれば、新しい病院の医師でも後遺障害診断書を作成しやすくなります。

2つ目は、転院前の医師に後遺障害診断書の作成を依頼する方法です。
どのような事情で転院したかにもよりますが、初診の医師に依頼すれば、後遺障害診断書の作成に協力してくれる可能性が高いでしょう。

理由③ トラブルに巻き込まれたくないから

医師の専門は治療であり、治療できずに残ってしまった後遺障害は専門外となります。
そのため、後遺障害診断書の書き方を知らない、トラブルに巻き込まれたくないなどの理由で、後遺障害診断書の作成を敬遠する医師もいます。

ですが、正当な理由がない限り、医師は後遺障害診断書を作成する義務があります
あいまいな理由で断られたとしても、諦めずに担当医と交渉を続けるようにしてください。

まとめ

交通事故でむちうちを負った場合、医療機関で診断書を作成してもらう必要があります
診断書の用途は様々であり、警察に提出する用のものや、加害者側の任意保険会社に提出する用のものがあります。

診断書を提出しなければ、警察に物損事故として処理されるため、加害者への慰謝料を請求はできません。また、相手方の任意保険会社からも、適切な金額の賠償金を受け取れなくなるおそれがあります。そのため、交通事故でむちうちを発症したときは、必ず診断書を取得するようにしてください。

中には、むちうちによる症状が完治せず、痛みやしびれなどの不具合が残り続ける場合があります。
このようなケースでは、通常の診断書とは別に、後遺障害診断書も必要です
後遺障害診断書の記載内容は、後遺障害等級の認定可否に直結するため、医師と協力しながら適切な後遺障害診断書を書いてもらうようにしてください。

公開日: 2024-01-22