交通事故で保険会社が嫌がることを紹介|損しないための交渉術解説
交通事故による怪我の慰謝料請求に関しては、保険会社との相談が一般的です。しかし、保険会社が避けたがることを知っているでしょうか。
保険会社にとっては、慰謝料の支払いは財務的な負担となるため、できるだけ少ない金額で解決したいと考えることがあります。また、保険会社は利益を追求する企業ですので、自社の利益を最大化することが重要な目標となります。
被害者としては、このような事情を理解しておくことが重要です。ただし、保険会社と対立することは避けるべきです。なぜなら、保険会社とのトラブルは時間と労力を消耗するだけでなく、最終的には被害者にとって不利になる可能性もあるからです。
この記事では被害者が不利益を被らない為に保険会社に対してどのような行動を起こせばよいのか詳しく解説していきます。
【結論】保険会社は法律にもとづいて適切な対応をされると嫌がる
交通事故の被害者は、事故で被った損害について、相手方の保険会社に損害賠償請求できます。
しかし、示談交渉で保険会社の主張を鵜呑みにしてしまうと、被害者に不利な条件で示談が成立してしまいます。
では、交通事故の被害者は、保険会社のいいなりになるしかないのでしょうか。
結論として、法的に正しい主張をすれば、損害賠償額を増額することが可能です。保険会社にとっては嫌なことですが、適切な賠償金を請求するためには、正しい知識を持って交渉することが大切です。
この記事では、損害賠償額の交渉で保険会社が嫌がることや、賠償金を増額させるための対応策について解説します。
保険会社が嫌がる5つのこと
交通事故の対応において、保険会社が嫌がることを解説します。
交通事故について正しい知識を持っている
相手方の保険会社が最も嫌がることは、被害者が交通事故に関して正しい知識を持っていることです。
交通事故は、人生の中で何回も経験するものではありません。そのため、被害者は交通事故の損害賠償について詳しくない場合がほとんどです。
一方で、相手方の保険会社は、普段から交通事故の案件を複数抱えており、豊富な知識を持っています。このように、基本的には被害者と保険会社との間に情報格差があります。そこで、保険会社は、無知な被害者を丸めこんで、保険金の支払い額を抑えようとするのです。
しかし、被害者が交通事故について正しい知識を持っていると、不利な提案をしても被害者に見抜かれてしまいます。結果的に、保険金の支払い額を抑えられなくなるので、保険会社にとっては都合が悪いのです。
弁護士に依頼する
交通事故の対応に慣れていない被害者は、弁護士に示談交渉を代理してもらう場合があります。
ですが、これは保険会社にとってかなり都合が悪いことです。
弁護士は法律に関する専門知識を有しているだけでなく、交渉技術も長けています。
そのため、いくら保険会社の担当者といっても、保険会社側の主張を弁護士に通すことはできません。
また、保険会社は独自の基準(任意保険基準)で慰謝料を計算し、被害者に示談金を提案します。ですが、これは裁判で認められる金額ではありません。一方で、弁護士は、裁判基準の賠償金を保険会社に請求します。
任意保険基準と裁判基準では、裁判基準で計算した慰謝料の方がはるかに高く、場合によっては2倍以上の金額になることもあります。
したがって、保険金を負担する保険会社としては、被害者に弁護士が就くことをかなり嫌がります。
医師の指示に従って通院する
被害者が交通事故で負ったケガを治療している間は、保険会社が治療費を負担する必要があります。
保険会社としては、いつまでも治療費を支払い続けるわけにはいきません。また、通院期間が長引けば、入通院にかかる慰謝料も増額してしまうため、通院途中で治療費の打ち切りを打診することがあります。
しかし、医師が症状固定(治療を継続してもこれ以上効果が見込めない状態)と判断するまでは、保険会社は被害者に治療費を支払う義務があります。被害者が保険会社の打診を断って通院を継続すると、保険会社は被害者に治療費を支払い続けなければなりません。
このように、被害者が医師の指示に従って通院を続けることは、保険会社にとって都合が悪いのです。
そんぽADRセンターに苦情を入れる
示談交渉で保険会社とトラブルになった場合、被害者は「そんぽADRセンター」に相談することが可能です。
損保ADRセンターとは、日本損害保険協会の被害者対応窓口のことであり、損害保険や交通事故に関する相談を受け付けています。また、保険会社とトラブルが発生したときは、そんぽADRセンターに苦情を入れることもできます。
相談対応では、専門の相談員が和解案を提示してくれるなどして、紛争解決の支援を行なってくれます。
一方で、センターに苦情を入れられると、保険会社はそれに対応しなければなりません。労力をかけたくない保険会社にとっては、そんぽADRセンターに苦情を入れられることを嫌がります。
裁判を起こす
保険会社は訴訟を提起されるのを嫌がります。
というのも、保険会社は、慰謝料を任意保険基準という独自の基準で計算しますが、これは裁判で認められる相場を大きく下回ります。
一方で、裁判の判決では、裁判基準で慰謝料が計算されます。裁判基準は任意保険基準よりも慰謝料が高額になるため、保険会社の支出額が増えてしまうのです。
特に、被害者が弁護士に依頼すると、任意保険会社は裁判で弁護士を相手にすることになります。こうなると、保険会社側が裁判で勝てる見込みはほとんどありません。裁判は時間や費用がかかる手続きですので、早く交渉を終わらせたい保険会社にとっては、裁判は最も避けたいことになります。
保険会社は嫌がるけどやってはいけないこと
保険会社は嫌がるものの、やってはいけないことを解説します。
加害者に直接連絡する
加害者の中には、示談交渉を保険会社に任せきりにして、被害者に連絡や謝罪をしない人も一定数います。被害者としては「加害者に誠意がない」と感じてしまい、加害者に直接賠償請求したいと思われるかもしれません。
しかし、たとえ加害者に直接連絡したとしても、「保険会社と連絡してほしい」と言われたり、無視されて話し合いに応じてくれなかったりする場合がほとんどです。
それでも、しつこく加害者に請求を続けていると、刑法上の恐喝罪などの罪に問われてしまう可能性があります。加害者の対応に苛立ちを覚えたとしても、基本的には保険会社と示談交渉するようにしましょう。
補償範囲にないものを請求する
交通事故における損害賠償は、法律で定められた範囲でのみ支払われます。
例えば、人身事故で被った精神的苦痛に対する慰謝料や車両の修理費、事故にあわなければ得られたであろう将来の利益(逸失利益)、被害者が死亡した場合の葬儀費などが補償対象になります。
一方で、時価基準を超えた車両の修理費や、新車の買替え費などは補償範囲に含まれません。
保険会社にこれらの請求をしても法的な根拠がないため、承諾を得るのは不可能でしょう。
不正な請求をする
保険会社は、交通事故による損害の客観的な証拠や、法的な根拠に沿って賠償金を支払います。
治療の必要がないのに通院して治療費を請求したり、仕事を休んでいないのに休業損害を請求したりするなど、不正な請求をするのは絶対にやめましょう。
これらの行為が発覚すると、場合によっては詐欺罪に問われるおそれがあります。
保険会社にされがちな対応とその対処法
保険会社は被害者にとって不利な提案をすることがあります。
ここからは、保険会社にされがちな対応と対処法について解説します。
不利な過失割合を主張される
交通事故において、「加害者にしか過失がなかった」という事例は滅多にありません。ほとんどのケースでは、被害者にも少なからず不注意があります。
そこで、損害賠償額の計算では、被害者の不注意の程度(過失割合)に応じて、賠償金額が差し引かれる処理(過失相殺)が行われます。
具体的には、過去の判例を参考にしながら、事故状況に応じて過失割合が決められます。例えば、交差点内の右折車と左折車が衝突した場合、右折車の過失割合が70%、左折者の過失割合が30%となります。なぜなら、左折車の方が右折車よりも優先度が高く、右折車により大きな過失が認められるからです。
交通事故の示談交渉では、相手方の保険会社が過失割合を決定し、最終的な損害賠償額を提示してきます。しかし、保険会社が主張する過失割合は、必ずしも正しいわけではありません。むしろ、被害者に不利な過失割合を提示してくるケースの方が多く、賠償金が減ってしまうおそれがあります。
そうならないためには、被害者側が過失割合についての判例を知っておく必要があります。
判例タイムズ社出版の「別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版」という書籍には、交通事故の事故態様・道路状況ごとに、事故当事者の過失割合の判断基準が記載されています。
保険会社が主張する過失割合が本当に正しいかわからない場合は、一度この書籍を参考にしてみると良いでしょう。
他にも、弁護士に依頼することで、過失割合の計算を一任するという方法もあります。
低額の慰謝料を提示される
交通事故によるケガの治療で入通院したり、ケガが治らずに後遺障害として残ったりした場合、精神的苦痛を償わせるための慰謝料を請求できます。
通常、慰謝料の金額は示談交渉によって決定しますが、相手方の任意保険会社は、任意保険基準という独自の計算方法で算出した慰謝料を提案します。しかし、任意保険基準で算出された慰謝料は、適切な金額ではありません。裁判で認められる相場を大きく下回る金額になっています。
本来の金額を請求するためには、裁判基準で慰謝料を算出しなければなりません。しかし、被害者が「賠償金を増額してほしい」と主張しても、保険会社はなかなか聞き入れてくれないでしょう。
被害者の多くは法律に詳しくないため、保険会社は無知につけこんで保険金を安く済まそうとするのです。
そのような場合は、弁護士などの専門家に一度相談してみてください。弁護士であれば、裁判基準の慰謝料を請求してくれるので、高額の慰謝料を獲得できます。
仮に、保険会社が弁護士の要求を断ったとしても、弁護士は裁判を起こすことが可能です。保険会社としては、裁判沙汰になるのは避けたいと考えていますので、基本的には弁護士の主張を受け入れようとするでしょう。
治療費の支払いを打ち切られる
保険会社は、まだ医師が何も指示していないのに、治療費の打ち切りを打診してくることがあります。
症状固定までの平均期間の例として、打撲が1ヶ月、むちうちが3ヶ月、骨折が6ヶ月となっています。そして、これらの治療期間が過ぎれば、保険会社は「そろそろ症状固定なので治療費の支払いを終了して良いですか?」と、治療費の打ち切りを打診するケースがほとんどです。
ですが、症状固定の時期を判断するのは医師です。これらの期間はあくまで目安であり、保険会社が判断するものではありません。
医師がまだ治療を続ける必要があると判断した場合は、保険会社は被害者に治療費を支払い続けなければなりません。
したがって、症状固定前に保険会社から打ち切りの打診をされたとしても、「医師の指示があるまでは通院を継続する」と断るようにしてください。
保険会社が不誠実な対応をする理由
なぜ保険会社は、損害賠償額を安く済ませようとしたり、治療費の支払いを打ち切ったりするのでしょうか?ここからは、保険会社が被害者に不誠実な対応をする理由を解説します。
民間の営利企業だから
保険会社は利益を追及する民間企業です。被害者側の要求を全て聞き入れて保険金を支出すると、自社の損失に繋がってしまいます。そのため、保険金を支払う際には、裁判で認められる金額より低い慰謝料を提案したり、治療費を打ち切ろうとしたりするなど、できるだけ支出を抑えようとするのです。
加害者と契約している立場だから
保険会社は、被害者に賠償金を支払う立場ですが、被害者の味方というわけではありません。むしろ、顧客である加害者側の味方であり、加害者の主張を代弁する立場にあります。
したがって、相手方の保険会社は、できるだけ加害者が負担する賠償額を少なくしようとします。
他にも複数の案件を抱えているから
交通事故の示談交渉は、被害者にとって今後の生活を左右する大事のものです。
しかし、保険会社としては、数ある案件の一つであり、他にも処理しなければならない事件を複数抱えています。個々の示談交渉に長い時間をかけられず、早く打ち切るように対応してしまうため、被害者からすると不誠実な対応に思えてしまうのです。
まとめ
保険会社は、被害者が交通事故について正しい知識を持っていたり、被害者に弁護士がついたりすることを嫌がります。これは、保険会社が負担する保険金の支出が増えてしまうからです。
しかし、適切な金額の賠償金を請求するのは、被害者に与えられた当然の権利です。
保険会社の言い分を鵜呑みにせず、適正な補償を受けるための対策をしましょう。
もちろん、保険会社の担当者は交渉に手慣れているため、被害者の方が一人で賠償金の増額を求めるのは簡単ではありません。
そのような場合は、弁護士などの専門家に一度相談してみてください。弁護士であれば、慰謝料を増額請求してくれたり、正しい過失割合で賠償金を計算してくれます。